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東京地方裁判所 昭和42年(行ウ)218号 判決 1970年9月24日

原告 石原か

右訴訟代理人弁護士 田中登

被告 東京都台東税務事務所長 羽山正男

右指定代理人東京都事務吏員 横田国宏

<ほか一名>

主文

被告が原告に対し昭和四二年一月一四日付をもってした不動産取得税賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

(原告)

主文同旨の判決を求めた。

(被告)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二原告主張の請求の原因

一  被告は原告に対し主文第一項掲記の処分をもって課税標準額を一、二八七万八、八〇〇円、税額を三八万六、三六〇円とする不動産取得税を賦課する旨を決定した。原告は右処分を不服とし、昭和四二年二月六日東京都知事に審査請求をしたが、同知事から同年九月二〇日付をもって右審査請求を棄却する旨の裁決をされ、同年九月二四日右裁決書の正本の送達を受けた。

二  しかしながら、被告がした右処分は原告が昭和四一年一二月五日別紙目録記載(A)の土地(以下、(A)地という。)を大野國蔵から売買により取得したと認定したことに基づくが、原告が(A)地を取得したのは昭和二二年九月三〇日工藤謙二から代金三〇万円で買受けたことによるものであって、右処分には事実認定を誤った点において違法な瑕疵がある。もっとも原告は昭和四一年一二月五日(A)地につき大野國蔵を売主とする昭和二二年九月三〇日付の売買を原因として所有権移転登記を経由したが、それは次のような事情によるのであって、権利変動の過程に合致しない。すなわち、

(一)  原告は(A)地を買受けた当時その一部に親しい間柄にあった高橋つる所有の建物が存在したので、自己の名を避け従兄にあたる大野國蔵の名で右建物の収去を求めるため同人の了解のもとに(A)地の買受による所有権移転登記を同人名義で経由した。

(二)  そして、原告は大野國蔵の名義を藉り、自ら費用を負担して昭和二四年高橋つるに対し建物収去土地明渡を求める訴えを提起し(東京地方裁判所昭和二四年(ワ)第一、〇九六号)たうえ、昭和二六年六月二五日同人との間において裁判上の和解をなし、土地明渡の目的を遂げた。

(三)  そこで、原告は(A)地について登記簿の記載を実体関係に符合させるため、大野國蔵の名義でされた前記所有権移転登記につき錯誤による抹消登記をし、旧所有者の工藤謙二からあらためて所有権移転登記の経由を受くべく同人と折衝したが、同人が登記手続に必要な印鑑証明書の交付に応じなかったところから、やむなく大野國蔵から昭和二二年九月三〇日付の売買による所有権移転登記手続を受けたのが事の真相である。

第三被告の主張

(答弁)

請求原因のうち、一の事実は認める。同二の冒頭の事実は原告主張の課税処分が原告主張の事実認定に基づくものであること、(A)地につき原告主張の登記が経由されたことを認めるほかは、すべて否認する。同(一)の事実は(A)地につき原告主張の登記が経由されたことを認めるほかは、すべて知らない。同(二)の事実は大野國蔵の名で高橋つるに対し原告主張の訴えが提起され、両者間に裁判上の和解が成立したことを認めるほかはすべて知らない。同(三)の事実は(A)地につき原告主張の登記が経由されたことを認めるほかはすべて知らない。

(抗弁)

被告がした右課税処分は原告が(A)地を昭和四一年一二月五日大野國蔵から売買により取得したとの認定に基づくものであるが、右認定にはなんらのそごがないから、右処分は適法である。すなわち、原告は(A)地につき昭和四一年一二月五日大野國蔵との売買を原因とする所有権移転登記をしたから、原告は右登記の日、大野との売買により(A)地の所有権を取得したものと推認するのが相当であって、これと軌を一にした被告の認定は正しい。もっとも、その登記原因たる売買は昭和二二年九月三〇日の日付であるが、これを現実の契約締結の日と認めるのは不動産登記の実際にそぐわない。現に、大野國蔵自身が高橋つるに対する前記建物収去土地明渡請求訴訟の訴状において、昭和二二年九月三日工藤謙二から(A)地を買受けて、所有権移転登記を了した旨を記載しているのである。

第四証拠関係≪省略≫

理由

一  被告が原告に対し昭和四二年一月一四日付の主文第一項掲記の処分をもって課税標準額を一、二八七万八、〇〇〇円、税額を三八万、六、三六〇円とする不動産取得税を賦課する旨を決定したこと、原告が右処分を不服として昭和四二年二月六日東京都知事に審査請求をし、同知事から同年九月二〇日付をもって右審査請求を棄却する旨の裁決をされ、同年九月二四日右裁決書の正本の送達を受けたことは当事者間に争いがない。

二  そこで被告がした右課税処分の適否につき考察する。右処分が原告において昭和四一年一二月五日(A)地を大野國蔵から売買により取得したと認定したことによるものであることは当事者間に争いがない。

ところで、(A)地につき昭和四一年一二月五日受付で大野國蔵から原告に対する昭和二二年九月三〇日付売買による所有権移転登記がされたことは当事者間に争いがないが、≪証拠省略≫をあわせ考えると、右登記にいたる経緯については次の事実を認めることができる。

(一)  原告は昭和二一年五月頃天野源七からその所有の別紙目録記載(C)の土地(以下、(C)地という。)を借り受け、その地上にバラックを建て、やがて復員した夫石原治助と共に同所で、かき氷屋を営むようになった。

そして、右天野は(C)地のほか、その西側の一部と境界を接する同目録記載(B)の土地(以下、(B)地という。)ならびに(C)地の西側の一部と境界を接し、かつ、(B)地の西側および南側と境界を接する(A)地を含む附近一帯の土地を所有していたが、昭和二一年頃不動産業者である佐藤重次を介し(A)ないし(C)地を一括して工藤謙二に売却した。ところが、同人は旅館を建設する目的でこれを買受けたものの、(B)地には高橋つるが飲み屋を設け、また(C)地には原告がかき氷屋を設ける事態が生じたので、昭和二二年春頃(B)地および(C)地を佐藤重次に返還した。そこで同人は原告及び高橋に対しそれぞれその占有する(C)地及び(B)地の買取り方をすすめたところ、原告はこれに応じて(C)地を買受け、夫石原治助名義で所有権移転登記を経由した。ところが、高橋は代金額を不満として(B)地の買取りを拒んだので、佐藤は原告に(B)地の買取り方を申入れた。一方、原告は工藤に(A)地処分の意向のあることを知って、その売却方を交渉した結果、昭和二二年九月頃同人との間において(A)地を代金三〇万円で買受ける旨の契約を締結し、その代金を支払い(原告はそのうち一四万円を姉の夫安倍貞吉から借用した。)、工藤から(A)地の登記済証及び白紙委任状等登記に必要な書類の交付を受けたが、そのうえは(B)地を買受けて(A)地及び(C)地と一体として利用するにしくはないと判断して佐藤の前記申入れに応じることとし、その頃同人との間において(B)地を代金三万円で買受ける旨の契約を締結しその代金を支払い、同人から登記に必要な書類の交付を受けた。

(二)  ところが、当時(B)地から(A)地の東側の一部にかけて高橋つるが飲み屋営業のために建てたバラックが存在し、原告において(B)地及び(C)地を利用するためには早晩、高橋に対しその明渡しを求める必要があったので、原告は平素親しくしている高橋との間に生ずべき紛争の処理につき自己の名義を避けて従兄にあたる大野國蔵の名義を用いる考えから、同人の承諾のもとに昭和二二年九月三〇日(A)地及び(B)地につき先きに、その売主たる工藤謙二及び佐藤重次から交付を受けた前記書類を用いて大野國蔵を所有名義人とする所有権移転登記手続を了した(ただし、(A)地につき右登記手続がなされたことは争いがない。)。

(三)  そして、原告は大野國蔵の名義で、高橋つるに対しその占有にかかる(A)地の東側の一部及び(B)地の明渡しを求め、昭和二四年三月一八日には同人を相手どり建物収去、土地明渡しを求める訴えを提起し(当庁昭和二四年(ワ)第一〇九六号建物収去土地明渡請求事件として係属)たうえ、昭和二六年六月二五日同人との間において裁判上の和解をなし(ただし、訴提起及び裁判上の和解成立の点は争いがない。)ほぼ土地明渡の目的を達した。すなわち、高橋は右和解条項に従い同年七月には(A)地を、昭和三〇年二月には(B)地を各明渡した。

そこで原告は夫治助とともに(A)ないし(C)地に鉄筋コンクリート四階建ビルディングを建設する計画をたて、昭和三七年初め右ビルディングの建築を完成し、これにつき両名の共有として所有権保存登記を経由した。

(四)  ところが、原告はその結果、夫治助の所有名義の(C)地並びに大野國蔵の所有名義で、形式上、治助において借地権の設定を受けた(A)地及び(B)地を敷地とする右ビルディングの共有持分を取得したが、その敷地利用について対価を治助に支払わなかったことにより同人からこれに相当する金額の贈与を受けたとして、昭和四〇年五月二三日下谷税務署長から贈与税の賦課処分をうけた。そこで、原告は(A)地及び(B)地につき登記簿の記載を実体関係に符合させる必要を感じ、これを実現するため、昭和四一年一一月頃工藤謙二及び佐藤重次に協力を求めたところ、佐藤重次は事情を理解して原告の申入れに応じ、(B)地につき、昭和四一年一一月一七日付で大野國蔵に対する所有権移転登記の錯誤による抹消登記及び原告に対する昭和二二年九月三〇日付売買による所有権移転登記の申請に協力したが、工藤謙二はこれを拒絶したため、原告はやむなく(A)地につき大野國蔵の協力により昭和四一年一二月五日付で大野國蔵から原告に対する昭和二二年九月三〇日付売買による所有権移転登記をしたものである。

してみると、(A)地につき大野國蔵から原告に対する前記のような所有権移転登記が存するからといって、それだけで、原告が(A)地を昭和四一年一二月五日大野國蔵から取得したと認めるのは早計というべきであるのみならず、むしろ原告は(A)地を昭和二二年九月三〇日工藤謙二から買受けて取得したものというべきである。従って、被告がなした本件課税処分は右の点において事実を誤認し、その結果、原告に対し不動産取得税を賦課すべきでないのに、これを賦課した違法な瑕疵があるといわざるをえない。

三  よって、右処分の取消しを求める原告の本訴請求を理由があるものとして認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曽競 山下薫)

<以下省略>

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